ユリイカ へそ篇 | autochromatics differencia

ユリイカ へそ篇

へそ、この役立たぬもの。

母体と赤子を繋ぐ重要な栄養供給路だったのも今は昔、出産後には無用の長物と化すただの遺物。腹部の美しくあるべき起伏に余計な穴を穿ち、汚らしい垢の溜り場と成り果て、胡麻のくせに悪臭を放ち、挙句の果ては人によって出っ張りもする。こんな無用有害なものは人体から一刻も早く消え去るべきではないか。それなのにドーナツの穴よろしく形而上学的謎として長々と身体の中心に居座っている。私はこのへその不条理にずっと行き場のない憤慨の念を抱いてきた。しかし、その偏見は覆されることになった。へそよ、私が間違っていた。

きっかけは一本の電話だった。近々出産を控えた遠方の友人と電話で話をしていたとき、彼女はこう言った。赤子がすくすくと成長し、お腹が大きくなってくるにつれ、段々とへそが奥からめくれ上がってきていると。そう、彼女は私に告げたのだ。

 そうだったのか! へそは、出産へ向けて張り詰めてゆくお腹の皮膚の「予備」として、その時までじっとそこに隠れ潜んでいたのだ。雪解けを待つふきのとうのようないじらしさ。へそよ、君は無用有害なんかじゃない。立派な機能を持った、一人前の器官だよ。

ありがとう、ありがとう、へそ。