茂木さんが司会者とは・・・ | autochromatics differencia

茂木さんが司会者とは・・・

「プロジェクトX」の後釜となる番組「プロフェッショナル」の司会をクオリアで有名な脳科学者(?)である茂木健一郎が務めている。昨夜初回が放送された訳だが、「プロジェクトX」が、傾向的に、主に高度経済成長期をその影で支えていた技術者たちに焦点を当て、そうした小さな「物語」の結束化を通じて大きな「物語」の再確認・再補強を図ろうとしていたのに対し(僕は熱心な試聴者ではなかったため的を外しているかもしれない)、初回放送を観る限り、「プロフェッショナル」は各分野で先駆的な業績を成し遂げている人物を取り上げ、その人物を通して現在生じつつある時代の転換を透視させようというのが狙いであると見受けられた。プロジェクトXで際立っていたあの高揚させるような番組演出は抑えられ(あれが僕の肌にはどうにも合わなかった)、分析的な視線が前面に押し出ている。番組の企図と構成を考えると、茂木健一郎の起用もあながち外れではないかもしれない。危機的なほどには人気が落ちていたとも思えない「プロジェクトX」が終了したのは、おそらくそのコンセプト自体が耐用年数に来ており、番組としての方針転換が迫られていたから、ということだろう。早期治療の試み、といったところか。


 初回のゲストは星野佳路氏である。氏はここ最近多くのメディアで採り上げられている時代の寵児であり、経営が傾いた旅館を鮮やかな手腕で次々と再生させているのだが、なるほど彼の経営戦略そのものが時代の鏡として機能している、つまり、形式面を取り出せば、彼の経営戦略は現代に広く望まれている動向をいくつかの点で重ね書きしているのである。第一に、彼はけっして「ワンマンな経営者」という立場を取らず、社員個々の潜在能力を引き出し、個々の自覚を一段階引き上げることによって、経営を、内部の自浄作用を向上させるという仕方で健全化する。つまり、従来の経営者のように裁量権を独占するのではなく、むしろその前段階である裁量の手筈を整える役に回り、社員の自発性や決定権を重視する「調整者」として働いているのである。裁量そのものは社員に任される。第二に、彼は温泉旅館という「ローカル」な資源に目をつけ、それを世界的な観光水準へと引き上げてゆくことを目標としている。日本の観光資源で唯一世界と対抗できるのは温泉のみであると喝破し、古い旅館の体質を改善することにより、顧客第一のサービス体制へと切り替えてゆく。「グローバル」な視野をもって、それを「ローカル」な文脈に落とし込んで止揚させるというその方針も、このように実践で有効に機能させるのは難しい。ほかにも指摘可能な点はいくつかあるが、主なものはこの二点であろう。星野氏を見て感じるのは、彼の人格が他のいわゆる成功者たちと比べて「小気味よい」という点である。何より、古い老舗旅館に活気が戻り、社員たちの顔が破顔してゆくのを見るのは、多くの試聴者を暖かな気分にさせたのではないか。


 茂木健一郎につられて観た番組だが、予想よりは作りこまれており、体裁の地味さを補うコンセプトの明確さがあった。それにつられて余計な分析までしてしまった。たんなるスタートダッシュに終わらないことを期待する。毎回観ている暇はないが。